理事長挨拶
日本妊娠高血圧学会 理事長あいさつ
愛知医科大学 産婦人科学講座
教授 渡辺員支
2025年10月18日付で、市原淳弘前理事長の後任として本学会の理事長を拝命いたしました。身に余る光栄とともに、その責任の重さを感じております。今後ともご指導ご支援を賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。
本学会は1980年、鈴木雅州先生と古谷博先生が当番世話人として「日本妊娠中毒症研究会」として発足しました。以来45年にわたり、名称変更や法人化など幾多の変遷を経て、現在の日本妊娠高血圧学会へと発展してまいりました。その間、多くの先輩諸先生方のご尽力で、本学会は種々の発展を遂げております。臨床分野としては、2009年には、本疾患に対するわが国で最初のガイドラインである妊娠高血圧症候群(PIH)管理ガイドラインが刊行され、その後、2015年、2021年に第2版、3版を刊行し、現在第4版を刊行すべく作成中です。これらのガイドラインは臨床上、極めて有用な情報を提供し、多くの産婦人科医、内科医に利用され、全国の医療施設間の診療レベル格差を是正し、妊娠高血圧症候群に罹患した母子の医療に貢献しております。また、研究分野に関しても、妊娠高血圧症候群に関する研究成果を英文論文として発表する場として、本学会の公式英文誌Hypertension Research in Pregnancyを、関係各位のご尽力により2013年に創刊いたしました。現在、13巻まで刊行されており、関係各位のご努力の結実としてインパクトファクターも付与されました。これにより、わが国における研究成果を世界へと広く発信できる体制が整っております。
近年の妊婦の高齢化とそれに伴う生殖補助医療による妊娠の増加もあり、妊娠高血圧症候群の発症頻度は高くなっております。また、妊娠前からの高血圧合併妊娠や、妊娠高血圧症候群既往女性における産後の高血圧、脳・心血管疾患や、慢性腎臓疾患の発症に対する内科的管理も重要となります。前理事長の市原先生も内科医でありましたが、多くの内科医や麻酔科医の先生方も本学会に参加頂き、産婦人科医と共にこの疾患に対処しております。さらに、2023年から、本学会は妊娠高血圧ヘルスケアプロバイダー(HCP)認定制度を開始しました。これは、妊娠高血圧症候群に関する知識に習熟し、妊娠前・妊娠中・出産後にチーム医療による専門的なケアを実践することで女性の健康維持に貢献することのできる人材の養成を目的としたもので、産婦人科や内科などの医師のみならず、多くの看護師、助産師や薬剤師など、周産期医療に携わる幅広い医療職の方々が毎年受講し、認定資格を取得されております。今後も本疾患に関わるすべての医療従事者が、同じ方向性を持って協力し、より質の高い医療を提供できる体制を築いていきたいと考えております。
本学会発足当初は、本疾患は学説の疾患と言われ、その病態解明と母子の救命を目的に研究会が立ち上げられたとされています。月日は経過し、その病態は徐々に解明され、疾患に対する管理・治療・予防方法も確立されてまいりました。さらに妊娠中のみでなく、産後、将来のヘルスケアや生まれてきた子供の予後に関しても検討が進められています。本疾患に罹患された母児の健康と福祉の向上のために、先人が志をもって設立された本学会を、さらに発展・充実させ、社会により一層貢献できる学会として歩みを進めてまいりたいと存じます。




